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クマとの“緊張感ある”ご近所付き合い~2025年クマ大量出没から考える~

2025年、なぜクマは街に現れたのか?野生動物管理のプロ・吉田淳久さんに聴きました。「共生とは、適度な緊張感を持つこと」。森に入る一歩目の注意点から、遭遇した時の心の持ちようまで、隣人であるクマとどう付き合っていくかを考えるヒントが詰まったインタビューです。

目次

  

野生生物管理部の吉田淳久さん

当社の中でも随一の肩筋肉の持ち主。クマの羨ましいところは、冬眠しても筋肉が落ちないところ。人間なら2週間程度で落ちてしまうというのに。
動物好きになったのは「わくわく動物ランド」や「ムツゴロウ動物王国」などのテレビ番組がきっかけ。獣医学部を志すも手が届かず、大学の研究室では昆虫を専攻するも、サークル活動では音楽とアザラシを追いかけ、就職段階で野生動物の道へ。

例年の4倍以上の出没通報

―― 2025年はクマの出没、人的被害のニュースが相次ぎました。当社の野生生物管理部にいらっしゃる吉田さんは、クマ対策の専門家としてたくさん出動していたとお聞きしています。通報を受けた時にどのように動いていたのか、典型的な例を教えてください。

吉田:出没通報があった現場に到着したら、まず目撃情報が「本当にクマだったのか」を確認します。それから「何か誘引物などの原因があるのか」を調べて、「どう対策したらいいのか」を役場の方、通報した方、地域の方に対してお伝えしています。今年は市民向けのクマ対策講座もたくさんありました。仙台市の取り組みで出前講座を行っていて、それに講師としてあちこちの地区に呼ばれました。

―― 例年と比べてどのくらい多かったのですか?

吉田:平均的には少ない年といいますか、平常時の出没通報は200件くらいですが、2025年は850件を超えていました。

ひとつじゃないクマ被害の要因

―― 2025年のクマ被害の増加について、専門家として要因をどう見ていらっしゃいますか?

吉田:個体数の増加やドングリの凶作もありますが、もともといくつもの要因があるんです。それらが複雑に絡み合い、年々積み重なってきて出没しやすい条件が整ってきたところに、ドングリの広域的な凶作が最終的なトリガーになって出没が増えたと考えています。
山で言うと、生息環境を少なくする開発もありました。「家がなくなった」パターンです。一方で、戦後の拡大造林政策で一時期全国的にスギ・ヒノキが植えられて70年経ち、森自体は増えました。しかし、管理できず暗くなった森からは林床の植生がなくなり、動物たちからしてみると「家はあるけど食べ物がない」という状態になりました。また、人口の減少によって管理されないボサボサの土地が増えたことは、クマたちの隠れる場所を里の周辺に増やすこととなりました。その他、管理されなくなった果樹の増加、冬眠場所が里に近くなったことや人慣れ、捕獲圧の減少などもあります。

気になる「若いクマたち」の出没

―― 若い熊がスーパーなどの「ここにも出るの?」という場所でうろちょろしている状況もありました。何か理由は考えられますか?

吉田:2年前の大凶作時に捕獲が進み、孤児になった子グマたちが現在2〜3歳になって徘徊している可能性があると考えています。彼らは冬眠を人家近くでする可能性もあり、そのような個体が世代交代を繰り返していくと、人里近くで一生を過ごす個体の割合が増えてくるかもしれません。データでしっかり分析したいことの1つです。

「野生生物管理」という仕事

―― 「野生生物管理」というお仕事について教えてください。

吉田:野生動物がどこでどのように生活しているかを調査して、人と動物が互いに豊かに暮らしていける方法を提案する仕事です。クマ、シカ、サル、イノシシが主な対象ですが、最近はカワウや外来種のアライグマも管理対象になりやすいです。人と軋轢が生じやすい動物ですね。

誤解されやすいこと

―― 「管理」という言葉が「捕獲」や「駆除」をイメージさせやすいと思うのですが、一般の方に誤解されることはありませんか?

吉田:「野生生物管理」は、以前は「野生生物保護管理」という言葉が使われていたので、愛護につながる捉え方をされることがありました。元々動物が好きでこういう仕事に就いている人が多いのですが、愛護だけでは色々な問題は解決しません。一方で「管理」という言葉だけでは捕獲の側面が強くなりすぎます。実際は、生態系全体のバランスを取ることが重要で、保全することも、捕獲することも、あくまでバランスを取るための選択肢のひとつです。

相談できる相手としての心がけ

―― 地域の人と生きものたちのために、仕事で心がけていることはありますか?

吉田:はじめて行った場所では周囲の情報をインプットして、環境条件や状況を細かく観察し、そこにどんな動物がいて、どのように動くかを想像するようにしています。それをもとに地域の方と「こんな環境だから、ここから動物が来ますよね」とお話しをすると地元の方との距離がぐっと縮まります。地域の皆さんは普段の農作業や水路の管理とかだけでも大変で、私はそこからさらに対策をお願いをする立場です。お見せするスライドに必ずその土地の写真を挟み込んだり、「綺麗に管理されてますね」とお話ししたり、自分の実体験として自分の言葉で話すなど、相談できる相手として受け入れてもらえるように努めています。

クマに襲われないために

―― 専門職の人ってクマに襲われないイメージがあるのですが、何か気を付けていることはありますか?

吉田:山に入る時には「ここにはクマがいるもんだ」という大前提で入っています。「こっちが先に見つけてやる」というつもりで、予想しながら歩いていますね。痕跡や地形、植生などの情報はその大きな手助けになります。クマはもともと「なかなか見られない動物」とされてきました。だからこそ痕跡の調査を皆で一生懸命にやっています。あまり足音を立てないとも言われていて、大きな音を立てないように枝を避けて歩いています。開けているところではゆっくり歩いていて、茂みに隠れた途端に速く移動してうまくスっと逃げていくこともあります。こちらからすると惑わされたような感覚になります。

―― 吉田さんはクマと出会ったらドキドキしますか?

吉田:それはもう心臓バクバクです!出会った時は、あらゆるシチュエーションを頭の中で考えます。フル回転です。周囲の環境を全部ぱっと見回して、地形的なクマとの位置関係や距離感とか、隠れる場所があるのか、どっちが優位なのか、状況を把握した上で、「こう来たらこうするぞ」とか「逃げた方がいいのか、このままやり過ごす方がいいのか」などの選択肢を考えます。焦っているのは向こうにも伝わると思うので、心臓はバクバクでも、何食わぬ顔で「こっちは別に気にしてないよ」と落ち着き払った演技力も大事かもしれません。

クマたち野生動物は、隣人のような存在

―― 野生生物管理に携わる吉田さんにとって、クマはどのような存在ですか?

吉田:クマに限らず、野生動物たちは当たり前にいてほしい隣人のような存在です。身近ではあるけれど、それぞれの生活を尊重して一線を引いた「付かず離れずの距離」ですね。よく「共生」・「共存」という言葉を耳にしますが、それらは「仲良く手をつないで歩くこと」ではなく、「適度な緊張感を保つこと」だと考えています。隣人との関係に問題が発生しているから、適度な緊張感を保てるように取り組んでいるだけです。

―― ではその隣人たるクマとの付き合い方について、事故を防止するために野外でできることを教えてください。

適度な緊張感を保つクマとのご近所付き合い
3つのポイント

point.1 森に入る第一歩目を慎重に

吉田:一番注意するタイミングは、森に入る第一歩目だと思っています。開けた場所からヤブを越えて山・樹林の中に入っていくその境界部分が一番危ないんです。山の中まで入ってしまえばクマと人はお互い気づきやすいのですが、ヤブは向こう側が見えずばったり会ってしまうかもしれません。「ここにはクマがいるもんだ」という大前提で入ってください。

point.2 音を出したら一呼吸置いて、逃げるスキを与える

吉田:笛などでヤブのそばを通る時に音を出してください。そして、出した後に一呼吸置いてください。音をジャラジャラ鳴らしながらまっすぐ歩き続ける人が多いですが、それは動物側からしてみると、音が聞こえてビクッとなって隠れようと思っているのに、人間がどんどん近づいてくるわけです。追い詰められて「もう飛び出して攻撃に転じるしかない!」という状況にならないよう、音を出したら一呼吸おいて、彼らに逃げるスキを与えてください。

point.3 出会ってしまったら、クマの気持ちを考えて対応する

吉田:出会ってしまったら、そのクマが追い詰められていると感じているかどうかで対応が変わります。向こうがこちらの存在に気づいているけれども気にかけていない、という時が結構あります。実際は横目で見ながら意識は集中しているかもしれないですが、そういう時はこっちも同じように見て見ぬふりをして静かにやり過ごせば済みます。でも向こうがこちらに興味を持っているとか、身構えているようであれば、こちらも注意しないといけないという風に対応が変わります。出会ってしまった状況が、クマにとって焦る状況なのかどうか考えることが、出会った時の対処として一番大事だと考えます。
離れているところから近づいてきた時は、大きく短く「おい」と声をかけるのもありだと思います。そばでギャーギャー騒ぐのは、やはり興奮させてしまうのでやめた方がいいでしょう。

人とのコミュニケーションと同じで、クマと出会った時の100%正解な対応はありません。

背中を見せて走るのはダメ!

吉田:クマに背中を見せて走って逃げるのは、やらないでください。クマは反射的に追ってしまいます。

吉田:真っすぐ下がるというのは結構難しいです。山中で足もとが見えないのはリスクもあります。目を見るというのは動物にとってすごく圧力があることなので、敵意を示さず静かに距離を取りたい時は、目線を少しそらしつつ相手の動きを確認して動けるように、斜めに構えるくらいがいいかなと考えています。

「クマが近い」を前提に暮らしを見つめ直す

―― 生活において、ひとりひとりの行動や意識で事故を防ぐことはできますか?

吉田:大前提として、「現在の環境は動物たちが街中に出没しやすい状況である」というのは踏まえなくてはいけません。クマを研究している人や、山歩きをしている人たちと情報交換していても、今年は山にはクマの気配がなく、むしろ里の方があるのでは、という状況です。クマたちの暮らしのコアとなる場所が山から里へシフトしているのかもしれません。誘引物となるものは徹底的に除去していくことが大事です。動物の個体数が多かろうが少なかろうが、誘引物があれば来ます。隠れ場所となるヤブも人手不足で里に増えていますが、動物たちは人間側の事情に関わらず利用します。何か対処しない限り動物が出現しやすい状況で私たちが生活しているという意識を持っていただきたいです。
そして色々な情報があふれている中で「動物たちが増えているのか、増えていないのか」、「動物たちがかわいいのか、憎いのか」などの二元論ではなく、生態系や私たちの生活全体を俯瞰して「どういうバランスを取っていくのが最もいいのか」という視点を持っていただきたいです。

これから専門家としてやりたいこと

―― 専門家として、これから調べたいこと、やってみたいことはありますか?

吉田:草刈りなどの環境整備をしたら、どのくらいの効果があるのか、どのくらい動物の行動を変えていけるのかのデータが圧倒的に不足しています。対策の有効性や信憑性を上げていくために、整備前と整備後の比較もしっかりやりたいです。色々な事情でなかなか難しくはあるのですが。
また、冬眠場所の押し返しも大事だと考えています。環境整備や捕獲を、秋の終わりから冬の始まりにかけて行ってみたらいいのかな、と。里の周辺で冬眠するクマ、里や人に慣れたクマが増えている問題に対して、一番大事なのは冬眠する場所を押し返す(里から山へ遠ざける)ことです。11月や12月の頭にクマたちは安定した安全な場所を探し回っているので、その時期に人里近くで冬眠しないように手を入れて圧力をかけることで冬眠場所を山奥に押し返せれば、春先の出没を多少抑えられるはずです。

野生生物管理に関わりたい人たちへ

―― これから野生生物管理の仕事に関わりたい若い人たちに、伝えたいことはありますか?

吉田:情報収集をして知識を増やすことはもちろん大事です。それと同時にちゃんと自分の目で見て「本当にそうか」を自分で考えていくことが大事だと思っています。20年前より大学でも捕獲による個体数制限が当たり前に教えられるようになってきて、学生さんや若い人は捕獲することが前提で物事を考えている人がいらっしゃいます。捕獲もオプションの一つとして大事ですけれども、私たちの仕事は「バランスを取ること」なので、マジョリティの意見だけに引っ張られると見えなくなることがありますので、是非広い視野で捉えていただきたいです。

―― ありがとうございました!

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