ちいかんコラム

2015
12.04

草原の魅力を再発見しよう
~草原がいつまでも人の集う場所であるために~

コンサルタント事業部 荒尾章子

コンサルタント事業部
荒尾章子

みなさん、こんにちは。コンサルタント事業部の荒尾章子です。

今回のコラムのテーマは「人」、そして舞台は「草原」です。
自然のものでありながら、いつの時代も「人」の生活に欠かせない存在「草原」。
このコラムを読んでくださっているみなさんにその素晴らしい魅力をお伝えしたいと思います。

 

「半自然草原」について

さて、みなさんの身近に「草原(くさっぱら)」はありますか?そして、日本の草原、その中でも「半自然草原」(人の手が加わってできた草原)の面積はどのぐらいだと思いますか。
日本は「森の国」と例えられるように国土面積の約70%を森林が占めています。では、ここで注目している「半自然草原」の占める割合は?というと、国土の1%(約37,700ha)ととても小さな面積です。

広々とした霧ヶ峰草原 遠くに見えるのは南アルプスの山々

広々とした霧ヶ峰草原。遠くに見えるのは南アルプスの山々。

しかし、小さいとはいえ、代表的でかつ大規模な熊本県阿蘇の草原の面積は約15,000ha、首都圏に近いところですと長野県霧ヶ峰が約2,300ha(東京ディズニーランド約45個分)の広さを持つといわれており、他にも小規模なものだと箱根の仙石原などもあります。また、「半自然草原」には田んぼの畔の草原環境も含まれます。
ところで、「半自然草原」の面積は国土の約1%と書きましたが、実は、かつては最大で国土の約10%を占めていた時期がありました。その時期は、牛馬の飼料や田んぼの肥料、果樹などのマルチ資材、家屋の屋根の材料など、様々なものに草原が利用されていた時代です。

時代とともに変化する人と草原との関わり

かつて「半自然草原」と「人」は、命をつなぐ生活の場として、非常に密接な関わりがありました。
しかし、時代とともにその形は変わり、今はどちらかというとレクリエーションや風景を楽しむための対象になることが多くなり、同時に「半自然草原」を利用する人々も場所によっては、地域住民から地域外の人へと変化してきました。

長野県霧ヶ峰の草原の例

私が学生時代から頻繁に訪れている長野県霧ヶ峰の草原は、かつては神事の場所として利用され、また草刈場(肥料や飼料など)として、次には研究、登山、スキー、自然探索と次々と変化しました。
神事の場としての利用は、霧ヶ峰に7年に一度の大祭が行われる「諏訪大社」の奥宮(標高1,600m)があり、戦国武将や全国の豪族が集っている様子が描かれた古い記録が残されていることからわかります。 

諏訪大社 神事の一コマ

諏訪大社 神事の一コマ

見えにくいですが、催事を見物するための土段があります。

見えにくいですが、催事を見物するための土段があります。

 

草刈りをするための手形(許可証)

草刈りをするための手形(許可証)

また草刈り場としては、入会地であった草原で草刈りをするための手形(許可証:右画像)のようなものも残されており、地域にとってとても大切な資源だったことがうかがえます。
昭和30年代までは草刈りをする人もいましたので、まだかろうじて当時のリアルな話を聞くことができます。中でもお盆の時期には、盆花を摘みに草原へ行き、いよいよ初秋の採草の時期には、草刈りの解禁と同時に、麓から荷車を曳いて駆け上がり、条件の良い場所をとりあったというお話がとても印象的です。

明治、大正、昭和時代にかけては、研究自体や研究者や作家などが交流する場となり、鳥類の専門家である中西吾堂や植物学者の武田久吉、三好学も訪れ、柳田国男、藤原咲平、深田久弥、小暮理太郎、尾崎喜八・・・(少し書きすぎました)、とにかく多分野の著名な方が一堂に会する機会もあったほどでした。

そして現在、霧ケ峰高原には地域外からも多くの人が訪れ、広々とした景観を探勝したり、生きものを観察したり、またトレッキングを楽しんだりといった利用がされています。 

これからの草原の在り方
阿蘇の草原を守るために全国からボランティアが。これも大きな経済効果です。

阿蘇の草原を守るために全国からボランティアが。これも大きな経済効果です。

今回は、長野県霧ヶ峰について紹介しましたが、ほかにも草原からの産物をブランド化して、地域づくりに活用し、賑わいをみせている熊本県阿蘇の例があります。
しかし、このように地域の知恵と努力によって、草原の価値を保ち、うまく活用している事例は全国でもほんの一握りです。草原を維持していくには多大な労力が必要です。その労力に見合うものが見つけられないと維持も困難になり、やがて森林に変わってしまう、あるいはほかの用途に利用されて消失してしまうのです。これは大変残念なことです。

一方で、新しい活用の動きもあります。
例えば、少し前から自然エネルギーの資源の一つとして草原の草が注目され、草のバイオマス発電利用といった取組みも始まっています。
また近年、神社仏閣などの屋根の葺き替えには欠かせない茅の確保が大変困難になり、全国的に茅の争奪戦になっているとの話があります。時代は変わっても、「茅葺き」が途絶えることはないでしょうから、草原の維持の必要性が見直されるのでは、と期待しています。
今後、利用の形がかわっても私たちの生活から切り離すことができないであろう「草原」にこれからも注目していきたいと思います。

私のおすすめする草原3選

これからの時期、地域によっては、草紅葉が見られるところもあります。夕日に輝くススキの原っぱも楽しみの一つです。全国には魅力的な草原がたくさんあって、3つに絞り込むのは非常に難しいのですが、誌面の関係から、心を鬼にして選んでみました。

1. 山梨県山梨市乙女高原
とてもとても小さな草原ですが、市民活動により大切に守られている草原で、多様な動植物(特にスミレや昆虫)が見られます。主に、草刈や侵入してきた樹木の伐採などにより維持されています。

2. 静岡県東伊豆町 稲取細野高原
ススキ草原と相模湾、伊豆七島を一望できます。春先には山焼き(火入れ)も行われます。

3. 奈良県曽爾村曽爾高原
面積は小さいのですが、さすが奈良県の草原ということもあり、草は文化財の補修に使われています。

「全国草原ネットワーク」(島根県大田市)が行っている、全国の草原データベースづくりの現時点(2015年10月22日ホームページ公開時)でのデータによると、全国で157地点の草原が挙げられています。ぜひ、こちらもご覧ください。
全国草原再生ネットワークホームページ



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