ちいかんコラム

2014
11.14

世に放て!「生物多様性のプロフェッショナル」
~地域の自然(地域の宝)を守り、未来につなげるために~

大阪支社長 上﨑 聰敏

大阪支社長 上﨑 聰敏

 

みなさま、こんにちは。
大阪支社長の 上﨑 聰敏 です。

ちいかんコラムの閲覧ありがとうございます。
今回は、大阪支社の取り組みのひとつを紹介したいと思います。

「(仮称)環境コンサルタント業界 理解促進プログラムの運営に関する研究」

とても難しそうな研究です。
このタイトルをご覧になって、多くの方は「よし続きを読んでやろう」という気にならないだろうな、と少々心配しながら先にすすめていきます。

ひとことで表現しますと、「生物多様性のプロ(リーダー)を育てる研究」。
もう少し平たい言い方をすれば、「地域の自然(地域の宝)を守り、未来につなげるプロ(リーダー)を育てる研究」ということになるでしょうか。

この研究は、兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科と協働で取り組んでいます。
いわゆる「産学共同」の取り組みの1つなのですが、その内容は国内でも先進的なものです。

講義で使用している資料です。

講義で使用している資料です。

県立大学の玄関にて

県立大学の玄関にて

研究内容は後程ご紹介するとして、
まずは、この研究(取り組み)にたどりつくまでの背景等をお話します。

最初に、自然環境のコンサルタントという業界・仕事・人材の話です。
この業種自体の歴史は新しく、約半世紀弱かなと思います。
(ちなみに、ちいかんは今年創業34年。業界の中でも古い方になりました。)

代表的な仕事は「環境アセスメントをはじめとする自然環境調査」で、その地域の自然を把握して様々な事業に活かすことが目的です。
この「環境アセスメント」を行う会社が加盟する団体の一つに「(一社)日本環境アセスメント協会」があります。その会員数は現在138法人となっており、ちいかんもその一員となっています。
(その中で自然環境の専門コンサルタント会社の数は更に少ない:(一社)日本環境アセスメント協会WEBサイトより)

また、総務省の統計をみると、国内の事業所数(個人事業者含む)は約550万、10人以上を雇用している事業所数は約110万となっていますので、この138法人という数の割合は、非常に小さく、「超専門的」だと言えます。(総務省 日本の統計 平成24年度より

 

事業者数 138法人という数は「激レア」であることが分かります。

事業者数。138法人という数は
「激レア」であることが分かります。

 

ニホンザルが山から下りてきているところ

ニホンザルが山から下りて
きているところ

次に仕事のことですが、最近は上記のような環境アセスメント等の自然環境調査とは「考え方、アプローチの仕方」が異なるものも増えてきています。
「生物多様性地域戦略の策定」や「地域ぐるみの鳥獣被害対策」や「再生可能エネルギーへの切り替えに関する事業」などがそうです。特に「クマが人里に降りてきた」「サルやイノシシが畑の作物を食べてしまう」「太陽光、風力、地熱、バイオマス等のエネルギーの話」等は、最近よく耳にされるのではないでしょうか。

シカの食害対策をした苗木を調査しているところ

シカの食害対策をした苗木を
調査しているところ

このような新しいタイプの仕事の共通点は「地域や人々の暮らし」との密接な関わりです。
ですので、仕事をすすめる際は、行政や一般市民、各種団体の皆様と一緒に方針や計画、対策を検討します。結果としてその地域で活かされるものをつくる、ということが大切だと考えています。
他にも新しい分野として「地方地域の活性化」があります。例えば、里山的な地域の自然資源の掘り起(宝探し)やその有効活用の方法(6次産業化)支援、地域古来の伝統文化と産業、そしてこれらと生きものとの関係性を調べるなどの問い合わせも、少しずつですが確実に増えてきています。

振り返れば、20年位かけて少しずつ、そしてこの数年で急激に「自然共生」「生物多様性」というキーワードが世の中に浸透し、その価値も高まってきています。
それにともなって私たち環境コンサルタント技術者が担う役割や活躍の場も広がりつつあります。
…と、ここで出現したハードルが「それらを担い、リードしていく人材」です。

冒頭でお話ししました「生物多様性のプロ」「地域の自然(地域の宝)を守り、未来につなげるプロ」と(普通の)「コンサルタントの技術者」とはどう違うのでしょう。

ずばり、「専門的なことを専門外の人々に共感してもらう力」です。
少し難しい言い方をしますと「課題解決のために社会学的なアプローチの出来る人材」も必要ですよ、となってきたのです。

先ほども申し上げましたが、地域づくりで一番大切なことは、「その地域で活かされるものをつくる」ということです。ですので、これに関わるすべての人々との「コミュニケーション能力、人としての魅力」がとても重要なのです。(目指せ、池上彰さんですね)

さて、次に学び・育成・就職のお話です。

現在の大学、特に大学院では、より高度に専門化した研究者の人材を育成することが一般的です。
先にお話しした「社会学的なアプローチの出来る人材」育成については、残念ながらまだそこまでは至っていないことも多く、特に理科系の学部ではその傾向が顕著かもしれません。
また、これまでは、せっかく専門的な知識を得た学生に対して、環境コンサルタント技術者のやり甲斐や魅力を正しく伝える機会が少なかったとも言えます。
その結果、環境コンサルタント業界は慢性的な人手不足と言われながら、そして大学側ではより高度な知識を習得したはずの学生の就職先がなかなか見つからない、といったとても残念なミスマッチが生じています。

相当長かったですが、ここまでが背景でここからが研究内容のご紹介です。
もう少しがんばってお付き合いください。

そのような背景や課題を解決すべく、今回取り組みを始めたのが、
「(仮称)環境コンサルタント業界 理解促進プログラムの運営に関する研究」です。

内容は、大学(兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科)と企業(ちいかん)が協働で、「学生」という人的資源の育成プログラムを企画・運営するものです。具体的には、ちいかんの技術者が大学院に出向いて、環境コンサルタントにまつわる様々なテーマについて講義を行っています。

江崎保男教授

江崎保男教授

大迫義人准教授

大迫義人准教授

 

講義中のちいかん社員

講義中のちいかん社員

この取り組みは、まだ試行的なものですが、まずは環境コンサルタントという業界を知ってもらうこと。次に、業界の実務や課題に対する理解を深めてもらうこと。そして、少しでもこの分野に興味を持つ人が増えてくれることを期待しています。自然共生社会の実現に向け、環境分野について学ぶ人や環境コンサルタントに興味を持つ人が増え、そして、一緒に働いてくれる人が増えれば、その先にとても明るい未来が待っているのではないかと考えています。

 

ラムサール条約湿地 田結湿地の状況

ラムサール条約湿地 田結(たい)湿地の状況

自然再生中の出石川の様子。(小さいですがコウノトリがいます)

自然再生中の出石川の様子。
(小さいですがコウノトリがいます)

 

今後も、生きものの分類や識別といった専門技能以外に、このような普及啓発的な取り組みを続け、「生きもの」と「人」と「社会」とをつなぐ仕事を続けていきたいと思います。

※兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科のホームページはこちら
http://www.u-hyogo.ac.jp/rrm/

※今年度の詳しいプログラムの内容はこちら : 年間スケジュール表(PDF 95kB)

 



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