ちいかんコラム

2016
10.07

~騒音鳥、勢力拡大中!?~ ガビチョウと里山管理

東京支社自然環境研究室長 大坪 瑞樹

東京支社自然環境研究室長
大坪 瑞樹

 

みなさん、こんにちは。
東京支社 自然環境研究室 室長の大坪と申します。

私は鳥類が専門分野で、主に関東地方のフィールドで鳥類の調査をしています。

今回は関東の都市近郊や里山で出会う鳥類の外来種をご紹介し、外来種と里山の自然について考えてみたいと思います。

 

勢力を拡大するガビチョウ

近年、各地で分布拡大が続いており、問題視されている鳥類の外来種の一つにガビチョウがあげられます。

ガビチョウは中国南部や東南アジア北部などが原産地で、飼い鳥として輸入された個体が逃げ出して(あるいは逃がされて)、野生化・定着したものと考えられています。1990年代以降急速に分布を拡大して、2005年には「特定外来生物」に指定されました。特に関東地方では高密度で生息する地域があり、在来種を抑えてその地域で最も個体数が優占する鳥類となっている場合があります。

さて、このガビチョウ、どんな鳥かというと、大きさはスズメの倍くらい、ハトよりは小さく、全身茶色の体で目の周りを囲む白い模様が特徴的です。普段は藪の中にいるので、姿を見られる機会はさほど多くはありません。

ですが、とてもやかましい声でさえずるので、存在感はバツグンです。さえずりのバリエーションが無限と言ってよいほど多く、文字で表すのは難しいのですが、代表的な鳴き方は「ガビィーガビィービュイビュイホフィー!!」といった感じでしょうか。少しだけ聴くと、「複雑できれいな声」と思えなくもないのですが、1日中大音量で聞かされると、もう騒音とも言えるもので辟易していまいます。

東京の多摩地域や埼玉県、神奈川県などの里山では、今やこの鳴き声ばかりが聞かれるようになりました。

ガビチョウの雛。雛の頃はかわいらしい。ガビチョウ成鳥。ややでっぷりとした体形で、あまり長距離を飛ばない。

左:ガビチョウの雛。雛の頃はかわいらしい。
右:ガビチョウ成鳥。ややでっぷりとした体形で、あまり長距離を飛ばない。

ガビチョウが増えると在来種が減る?

フィールドで調査をしていると、ガビチョウが増えた場所では、サンコウチョウやクロツグミなど在来種の鳥の美しいさえずりが、めっきり少なくなっているように感じられます。

一方で、ガビチョウはサンコウチョウなどの声をマネすることが多く、よく騙されます(姿を見てガッカリ・・・)。まるでガビチョウが他の鳥のさえずりを邪魔しているかのようです。

このように、フィールドに出ている調査員の感覚的には、ガビチョウが増えたことで他の鳥が減ったように感じてしまうのですが、実際には、日本におけるガビチョウの生態系への影響についてはわかっていません。ガビチョウが増えたことで在来種が減ったという確たる証拠は(今のところ)ないのです。
(※海外ではガビチョウの侵入以降に在来種が減少したとされる事例があります)

在来種の減少要因としては、里山の環境の変化や渡り鳥の越冬地である東南アジアの環境の悪化、地球温暖化の影響なども考えられることから、一概に外来種に原因があるとは言えません。

サンコウチョウ 里山の代表的な夏鳥だが、最近は少なくなっている。

サンコウチョウ
里山の代表的な夏鳥だが、最近は少なくなっている。

 

ガビチョウと里山管理

ただし、ガビチョウが増えることと環境の多様性の低下には関係があると考えられます。

ガビチョウはササが繁茂した藪の多い樹林地を生息地として好みます。関東地方の里山にある雑木林の多くは、下草刈りなどの管理が行き届かなくなり、林床がササで覆われてしまっています。こうなると林内の環境の多様性が失われ、生き物の種数は少なくなってしまいます。しかし、ガビチョウにとっては、大好きなササ藪だらけになることは好都合なのです。ササがより密に繁茂した林ほどガビチョウの密度は高いようです。

里山の生物多様性が低下して在来種が減る中、結果的に多様性が低くてもわりと平気なガビチョウだけが残って増えていくという構図のように思われます。

林床がササで覆われた雑木林 生物多様性は低下してしまう

林床がササで覆われた雑木林。生物多様性は低下してしまう。

 

外来種=勢力拡大とは限らない?

ガビチョウに近縁の外来種でカオグロガビチョウという種がいます。こちらも特定外来生物に指定されていますが、ガビチョウのように分布は広がらず、東京都の多摩地域や群馬県のごく一部などで局所的に生息しています。カオグロガビチョウは畑と樹林がモザイク状に点在する里地の環境を好むようなのですが、そのような環境は宅地化が進んで減っていることもあり、分布が広がらないのではないかと思われます。

また、ワカケホンセイインコは1960年代から野生化している外来種のパイオニアで、一頃は全国各地で記録がありましたが、現在ではほぼ関東のみ(主に東京都周辺)に分布が限られ、それ以外の地域ではあまり見られなくなりました。理由は不明ですが、長期間安定して定着できるための条件(例えば冬の気温など)が限られているのかも知れません。

カオグロガビチョウ ワカケホンセイインコ

カオグロガビチョウ           ワカケホンセイインコ

このように外来種だからと言って必ずしも勢力を拡大できるとは限らないのです。ガビチョウの場合は、本種にとって好適な環境が増えていく(里山が荒れていく)時代に侵入・定着してしまったことが、不幸な偶然だったとも言えます。

ガビチョウは減らせるのか?

ガビチョウを駆除する効果的な方法は、現在のところ確立されていません。残念ながら根絶することはおそらく不可能でしょう。しかし、里山の森を適切に管理して過度なササ藪化を防ぐことで、ガビチョウの増殖に歯止めをかけることはできるのではないかと思います。

ガビチョウの存在は、日本の里山管理の状態を示すバロメーターとなっているのかもしれません。

日本在来の鳥たちの上品で美しいさえずりに満ち溢れた里山の情景を少しでも取り戻せるように、何ができるか考えていかなければと思う日々です。



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