ちいかんコラム

2016
06.17

ザリガニと、ザリガニと、ザリガニの話
北海道のザリガニ事情 vol.2 ウチダザリガニ

北海道支社 自然環境研究室 熊沢純一

北海道支社 自然環境研究室
熊沢純一

ちいかん北海道支社の熊沢です。

前回に引き続き、ザリガニの話をさせていただきます。
(→ 前回はこちら

 

北海道の第2のザリガニ、ウチダザリガニという種は北米原産の外来種で、道内で分布を広げています。また、福島県や長野県等でも生息が確認されており、滋賀県の淡海湖に放流された個体群はタンカイザリガニと呼ばれています。
冷水を好みますが、ある程度なら高水温にも耐性があり、近年では関東地方でも確認されています。

 

ウチダザリガニ

ウチダザリガニ

前回お話ししましたニホンザリガニと比較するとかなり大型になる種で、まるで海産のロブスターを思わせる武骨な外観です。

元々は食用の目的で移入されたもので、かつては熱帯魚屋さんでもペットとして流通していましたが、現在では外来生物法の特定外来生物に指定され、飼育や持ち運びが禁止されています。

 

ウチダザリガニは河川の中、下流域や湖沼等に生息しますが、湖沼にニホンザリガニが生息していた場合には、これと競合してしまいます。体格の大きなウチダザリガニがニホンザリガニを直接捕食してしまう可能性のほか、餌や生息に都合のよい環境もウチダザリガニが優先的に利用してしまうことが予想されます。実際、北海道に生息していたニホンザリガニの湖沼個体群は激減しており、ウチダザリガニとの勢力争いに敗れてしまった可能性が高いと考えられています。

元々、北海道の大型の淡水性甲殻類といえば、せいぜいモクズガニくらいのもので、急きょ出現、増加したウチダザリガニが他の水生生物に及ぼす影響は、かなり大きいものと考えられます。わかりやすい例では、阿寒湖ではマリモが食べられてしまう(あのお土産屋さんでも売っているマリモです)、という事態も生じています。

 

少し横道に逸れましょう。

外来生物法の施行以前には、ザリガニ飼育のブーム?があり、ちょっとマニアックな熱帯魚屋さんに行けば、大抵、何種類か外国産のザリガニを販売していました。世界のザリガニを紹介する書籍等も販売され、見ますとこれが非常にカッコいい。産地、種類も多く、世界にはこれほどのザリガニの種がいるのかと驚きもありました。

ザリガニなんて、どうせどれも似たような色、形なのだろうと思う方も多いと思います。勿論、硬い体に大きな鋏脚という基本フォルムは同じですが、色も形状も多彩で興味深く、何と体にトゲを生やした奴までいます。ほとんどもう、怪獣映画の世界です。一見の価値あり!!です。
これらのザリガニ達のうち、ある種は食用として盛んに養殖され、ある種は外来種として問題を引き起こし、ある種は生息数が減少して保全や研究が進められているなど、人間との関わり方も様々です。
日本のザリガニに関心をお持ちの方でしたら、一度視野を広げてみて、世界のザリガニ事情を覗いてみることをお勧めします。

さて、外来生物法の施行により、これらの外国産ザリガニの多くは特定外来種として指定され、熱帯魚屋さん、ペットショップで目にする機会はなくなりました(一部の種については、現在でも飼育、販売が可能です)。
何故でしょう。いやいやいや、それはさっきウチダザリガニの話で書いてあったでしょう、と突っ込みを頂きそうですが、他にも事情があります。それはザリガニペストなどと物騒な名前で呼ばれるもので、要するに感染力の高い病原菌を保有する可能性があるためです。

ウチダザリガニ幸いにして?日本に放たれたウチダザリガニに起因した、この病気によるニホンザリガニの大量死は、今のところ“確認できては”いません。しかし、非常に感染力の強く致死性の高い病気なので、海外の事例を見てみますと、水系単位で在来個体群にかなりシビアな結果をもたらすようです。
これは非常に怖いことです。近年では両生類でカエルツボカビ病の影響が懸念され、大きな話題となりました。海外からもたらされた病気は、今までその病気に接することのなかった生き物にとっては対抗策が無いことが多く、致死性のものであれば劇的な個体数の減少、あるいはその種の地域的な絶滅の可能性を常にはらんでいます。

ペットを飼育することは楽しく、またその生き物を理解する上でも、有効な手段の一つだと思いますが、色々と突き詰めて調べてゆくと、このように怖い側面もあるのです。
・・・と、話しが盛り上がってきましたところで、今回はここまでです。

次回、最終回、皆さんご存知のあのザリガニが!!



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