ちいかんコラム

2015
08.24

~生きものにとっての緑地の役割とは?~
福岡市内の「緑地」を調べ始めました。

皆さん、初めまして。
九州支社 自然環境研究室の 田中一男です。
この度は、ちいかんコラムをご覧頂き、有難うございます。

九州支社自然環境研究室田中一男

九州支社自然環境研究室
田中 一男

私が九州支社の配属になってから幾数年。福岡市という土地にもすっかり慣れ、九州支社での仕事にも慣れて心に余裕が出てきた今日このごろ。休みの日には子ども達と公園などで遊びながら、福岡市の自然を体で感じています。植物調査技術者という仕事柄、地域の自然(特に、緑地や樹木)がどのようになっているのか興味があったのもあり、福岡市の緑地について… その中でも、生きものにとっての緑地の役割について考えたいと思い、少しずつ調べ始めたことを、今回このちいかんコラムでお話したいと思います。

まずは福岡市について少しご紹介します

黒田藩の城下町として栄えた福岡市。昨年の大河ドラマ「黒田官兵衛」は皆様の記憶にも新しいのではないでしょうか。古くからアジアの玄関口として、アジア諸国との交流が盛んな都市でもあります。
さらに、皆様ご存知のように食の都としても有名で、辛子明太子をはじめ博多ラーメン、牛モツ鍋などおいしい食べ物がたくさんあります。 また、福岡市は自然にも恵まれており、北は玄界灘に臨み、海の中道と糸島半島によって仕切られた博多湾を擁し、南は脊振山地、東は三郡山地に囲まれた半月形の福岡平野に位置し、大都会としての魅力と美しい自然を併せ持った都市でもあります。
(…と、福岡を愛して止まない私ですが、実は関西出身です…。)

緑地について

「緑地」という言葉を国語辞典などで調べてみると「植物に被われた土地」や「草木の生い茂った土地」という意味になるそうですが、皆様は緑地に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「緑地」と聞いてパッと思いつくのは公園、花や緑、生きものたちの棲み処…等でしょうか。
都市部における緑地は様々な機能を持っていて、上記に加え、防災、ヒートアイランド現象の緩和、景観形成等の役割もあります。
しかし、この中でも動植物をはじめとした自然環境を調べる仕事を生業としている私達が直接的に関わってくるのは、やはり生きものたちの棲み処としての側面です。特に都市部の緑地は、生態系ネットワークを形成する上で重要な役割を担っています。

※福岡市の緑の基本計画については、以下のHPをご覧ください。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/koenkeikaku/midori/shin-midorinokihonkeikaku.html
福岡市の緑の状況(出典:福岡市 新・緑の基本計画(平成21年5月))

福岡市の緑の状況(出典 : 福岡市 新・緑の基本計画(平成21年5月))

福岡市の緑地について
展望台から見た福岡市

展望台から見た福岡市

福岡市では、市内に存在する良好な緑地を「風地地区」、「特別緑地保全地区」、「緑地保全林地区」として法律、条令等に基づいて指定し、その保全を図っています。
しかし、緑地の『量』としての保全は進められているものの、その『質』となる生きものたちの生息の場としての調査は、多くの緑地で進んでいない現状があります(但し、西公園、南公園、大濠公園等の有名どころの緑地では観察会が活発であり、鳥類等については膨大な観察記録があります)。

福岡市の緑地を調べてみる

都市部の残された緑地に生息・生育する動植物はどのようなものがいるのか?そして、それらが緑地を経由してどのようにネットワークされているのか?これらを少しずつ把握するため、今回、「特別緑地保全地区」の一つである鴻巣山特別緑地保全地区に向かい、主に植物、鳥類を対象とした生物調査を行いました。調査は「博多湾生きものネットワーク(HBN)」の皆さんに協力してもらいました。

林内は整備されており、歩きやすいです。
林内は整備されており、歩きやすいです。
HBNの皆さんに協力してもらいました。
HBNの皆さんに協力してもらいました。
調査の結果、分かったこと

・緑地はシイ・カシを中心とした二次林でした。林内でみられる植物は、オオカグマ、イヌビワ、カクレミノ、サルトリイバラ等、その多くが里地里山で普通にみられる植物でした。
・鳥類は調査時期の問題もあり、種数は少なかったものの、コゲラ、ヤマガラ、シジュウカラ、キビタキ等、樹林性の種が確認できました。
・希少性の高い種は確認できなかったものの、確認できた生きものの多くは樹林環境に依存した種であり、自然の少ない都市部では希少な樹林環境となっていることがうかがえました。

今回の調査はひとつの緑地を簡単に調べただけであり、全容の把握には程遠い状況です。今後、記録の少ない緑地の調査を進めていくことで、地域の緑地の『質』を包括的に捉え、人と生きものにとってのより良いまちづくりに貢献できればと考えています。

最後に、ちいかん九州支社の地域でのCSR活動について

ちいかん九州支社は、有志による専門分野の垣根を超えた技術勉強会や、技術を活かしたCSR活動が盛んな支社です。私もメンバーの一員となっている「博多湾生きものネットワーク(HBN)」も活発に活動していて、今年度の初めには「博多湾の打ち上げ貝類2014」という小冊子を発行するまでになっています。
「博多湾生きものネットワーク(HBN)」は浜辺の生きものや漂着物から、私は緑地や樹木、そこに生息・生育する生きものから・・・と見ている自然環境は少し違いますが、海と陸、両方の情報を活かして、福岡市の生物多様性の保全に貢献していきたいと思います。

※博多湾生きものネットワーク(HBN)の活動については、こちらをご覧ください。
~ “漂着物” 浜辺の宝ものが教えてくれる生物多様性~
「博多湾生きものネットワーク(HBN)」の活動始めました。
http://www.chiikan.co.jp/column/201412032471/



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