2015
07.22
赤と黒の生きものたち
~堺市のレッドリスト・ブラックリスト(2015)作成にかかわって~
ちいかんWEBサイトにようこそ。
はじめまして。大阪支社 自然環境研究室長の 上田達也 です。
私は昆虫分類学、なかでも蛾類を専門分野としておりまして、特に「キバガ」がお気に入りです。
アゴといいますか、下唇鬚(かしんしゅ)のカタチがキバのようで何ともカッコイイです。
※「キバガ」については、弊社ニュースレターのエッセイにも
投稿しておりますので、読んでいただけたら幸いです。
ちいかん NewsLetter №20 エッセイ「タテジマキバガ」
http://www.chiikan.co.jp/newsletter/vol20/20-1.pdf
さて、今回は大阪府堺市レッドリスト(2015)・ブラックリスト(2015)作成にまつわるお話を紹介します。
※正式名称は、「堺市の生物多様性保全上考慮すべき野生生物-堺市レッドリスト2015・堺市外来種ブラックリスト2015-」といいますが、本コラムでは「堺市レッドリスト・ブラックリスト(2015)」と記載させていただきます。
以下は、一般的なレッドリストとブラックリストの違いです。どちらのリストも生物多様性を守っていくための様々な取り組みに必要不可欠なリストです。
● レッドリストとは? | ● ブラックリストとは? |
「絶滅の危機に瀕している野生生物のリスト」のことです。IUCN(国際自然保護連合)が作成しているレッドリストの正式名称は「絶滅のおそれのある種のレッドリスト」といい、日本でも環境省がIUCNの基準に基づいて作成しています。 | 在来の自然環境や野生生物に深刻な悪影響を及ぼす可能性のある外来生物をリスト化したものをいいます。市などの自治体単位で少しずつ作成され始めています。 |
参考WEBサイト
WWF Japan WEBサイト http://www.wwf.or.jp/aboutwwf/
生物多様性センター WEBサイト http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html
画像:堺市レッドリスト・ブラックリスト(2015)より
まずは堺市について紹介します
歴史・文化は古代に遡る
近畿地方の中央部に位置していて面積は大阪府下で2番目、人口は大阪市に次ぐ84万人の政令指定都市として関西の文化・経済を牽引している堺市。その歴史は古く、古代、仁徳天皇陵古墳で有名な百舌鳥古墳群が築造され、中世には海外交易の拠点として日本の経済、文化の中心地として繁栄しました。大河ドラマでも出番の多い茶人「千利休」の出生地として、また世界に誇る伝統産業「堺刃物」でも有名です。
※市の鳥は「モズ」 仁徳天皇とモズの出会いの伝説から、堺の地名「百舌鳥」(もず)がうまれたといわれています。その由来から市制100周年を記念して「モズ」が市の鳥となりました。 |
豊かな自然と迫りつつある問題
臨海部に広範な森づくりが行われている埋立地、中部に百舌鳥古墳群や田園地、南部の丘陵地に里地里山などといった多様な自然環境があり、様々な野生動植物が生息・生育しています。
しかし、近年、開発による市街地の拡大、里地里山環境の変遷、外来種による生態系の攪乱などにより生息・生育環境を奪われ、存続基盤を失ってしまう恐れのある種が急激に増加していることが問題となっています。
環境行政に先進的な堺市
堺市では2008年にレッドリスト(「堺市の保護上重要な野生生物 堺市レッドリスト -Sakai City Red List 2008-」)を公表し、2013年には市の自然的社会的特性を活かした生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な計画「生物多様性・堺戦略」を策定、公表するなど、積極的に自然環境の保全を行っている自治体です。
※上記堺市に関する情報について堺市WEBサイトより抜粋、記載しています。
http://www.city.sakai.lg.jp/index.html
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堺市レッドリスト・ブラックリスト(2015)ができるまで
レッドリスト改訂と新たにブラックリスト作成を決定
堺市は「生物多様性・堺戦略(2013)」策定を受けて、2008年に公表したレッドリストを改訂し、さらに大阪府下で初となるブラックリストの作成を決定、私たちは2013年7月から2015年3月まで約2年かけて改訂作業のお手伝いをさせていただくことになりました。
まずは情報収集と整理
まず、堺市にはどのような生きものがいるのか(かつていたのか)を整理した目録を作成するための「情報収集」を行いました。具体的には、文献資料の収集や文献資料だけでは不足する情報を補完するための補足現地調査、さらには堺市で自然環境保全の活動をされている方へのヒアリング等々。
それらの結果を検討するための基礎データとして整理しました。
有識者会議を経て完成、公表
有識者会議である「堺市レッドリスト改訂懇話会」ではレッドリスト、ブラックリスト掲載種の対象分類群やカテゴリーについて、また、掲載種を絞り込んでいくための手法などについても議論しました。幾度も議論を重ね今回の「堺市レッドリスト・ブラックリスト(2015)」が完成、2015年3月公表されました。また、堺市ブラックリスト(2015)は、大阪府下では初の外来種に関するリストとなりました。
※堺市レッドリスト改訂懇話会は大阪府立大学石井実教授他15名の委員で構成されています。私たちはこの懇話会の運営事務局をサポートさせていただきました。
堺市WEBサイト
http://www.city.sakai.lg.jp/shisei/gyosei/shingikai/kankyokyoku/kankyouhozenbu/redlist/iinmeibo.html
※『堺市の生物多様性保全上配慮すべき野生生物-堺市レッドリスト2015・堺市外来種ブラックリスト2015- 』とガイドブック、野生生物目録は堺市WEBサイトからダウンロードができます。
堺市WEBサイト
http://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/gomi/kankyo_hozen/seibutsutayosei/redlist.html
※堺市ブラックリスト(2015)は大阪府下では初の作成、公表だったこともあり、早速メディアに取り上げられました。
朝日新聞デジタル WEBサイト
「大阪:かわいい顔でも侵略者 堺市が外来種警戒リスト」(2015年6月24日)
http://www.asahi.com/articles/ASH6K4GR6H6KPPTB002.html
堺市レッドリスト・ブラックリスト作成に関わって実感したこと
古きを温ねて新しきを知る
今回、2008年に公表したレッドリスト以降に明らかになった古い標本の記録や、収集もれがあった古い文献等が追加されたことで、かつての堺市の自然について垣間見ることができました。その一方で、古い文献が追加されればされるほど、自然海岸の消失により、絶滅種が増えていくというもどかしさを感じましたが、「堺市レッドリスト改訂懇話会」委員の佐久間先生(大阪自然史博物館)による維管束植物の総論のとおり、古い文献情報が充実することで、「過去に絶滅していた種をあえて明らかにすることは無駄なことではなく、過去の堺市の環境を復元のモデルとして考える上で重要」なことだと改めて実感しました。
ブラックリストを外来生物対策に活かす
外来種はいったん侵入を許し、広がってしまうと、その根絶は非常に困難なものとなります。
堺市ブラックリストには、野生生物目録掲載種から選んだ種だけではなく、「要侵入警戒種」を掲載しています。「要侵入警戒種」とは、現在、堺市には侵入していないが周辺の市町村や大阪府にはすでに侵入していて、今後堺市に侵入した場合は生態系に大きな影響を及ぼす可能性が高い種を指します。
具体的には、大阪府下で確認されているタイワンリスやアルゼンチンアリ、ペットとして飼育されていたワニガメなど14種を掲載しています。
例えば、タイワンリスは在来種であるニホンリスと競合し、ニホンリスの絶滅要因になる可能性が懸念されていますし、アルゼンチンアリも同様に在来の生きものの絶滅要因になりかねません。さらに、ワニガメは非常に獰猛で人間にも被害を及ぼします。
侵入した外来生物に対して侵入初期に対策を打てるかどうかは外来生物対策では非常に重要です。そういう意味で侵入警戒種を明確にした意義は非常に大きいと実感しました。
もっと広げたい「生きものと共生する地域づくり」
堺市レッドリスト・ブラックリスト(2015)は、「堺市レッドリスト改訂懇話会」委員のご執筆による各分類群の総論を記載するなど、堺市の自然の現状を知ることができる読み物になっています。また合わせて作成したガイドブックは、ちいかんWEBサイトでもおなじみのイラストや写真で構成コラム等を掲載、一般市民の皆様にもわかりやすく、楽しみながら理解を深めていただける内容になっています。
COP10(生物多様性条約第10回締約国会議in名古屋)開催から5年、愛知ターゲットの実現を目指し国や自治体、民間企業等様々な主体が取り組みをすすめています。
「この動きをもっと広げたい」そのために私たちが出来ること、お手伝いできることを考え、着実に実行していきたいと思っています。
※参考WEBサイト
「地球と生命のための20の約束」(愛知ターゲット)を実現するためのにじゅうまるプロジェクトWEBサイト
http://bd20.jp/