ちいかんコラム

2015
06.26

~自然の機能を防災・減災に活かす~
「グリーンインフラの取組み in 世田谷区成城」

東京支社生物多様性推進室長 彦坂洋信

東京支社 生物多様性推進室長
彦坂洋信

皆さん、こんにちは。
東京支社 生物多様性推進室 室長の彦坂洋信です。

皆さんは「グリーンインフラ(GI=Green Infrastructure)」という言葉をご存知でしょうか?
「インフラ」と言うと、一般的には都市計画における社会基盤整備(例えば道路、河川、公共交通機関等)いわゆる「公共事業=ハード整備」というイメージがありますが、「グリーンインフラ」の“グリーン”は「自然の機能を活かした」という意味合いになります。

 

<これまでのインフラ整備>
交通利便性を高める道路、洪水防止のための堤防など、人工構造物による個別単一の機能を高める整備が進められてきました。
<これに対し、グリーンインフラは>
地域固有の生態系から得られる恵み(生態系サービス)を活かし、多面的な機能を併せ持つインフラ整備を行うことで、地域の様々な課題解決・地域づくりにも繋げていくことを期待する社会資本整備の手法といえます。
感嘆グリーンインフラに関する統一的な定義はありませんが、2013年(平成25年)5月に欧州連合(EU)で策定された「EUグリーンインフラストラクチャー戦略」によると、「生態系サービスの提供のために管理された自然・半自然地域の戦略的に計画されたネットワーク」と定義されています。
平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書第1部第1章p.22
 「コラム グリーンインフラストラクチャーの活用に係る世界の動向について」より抜粋
 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h26/pdf/full.pdf(36.76MB)

 

この「グリーンインフラ」の考え方や手法は、欧米では1990年代から導入されていて、近年日本でも特に防災・減災の視点から注目度が高まっているのです。
私も「生物多様性と都市機能」が専門分野のひとつということもあって、以前から興味を持っていました。そのような折、昨年末(大分前になりますが)、弊社東京事務所が所在する世田谷区内で、「GI研究会」(京都学園大学森本幸裕教授をはじめとするメンバー)主催のグリーンインフラに関する見学会に参加しました。その際の様子を紹介します。

 

馬事公苑の並木

馬事公苑の並木

弊社のある桜新町の街並み立派な樹木が多くみられます。

弊社のある桜新町の街並み
立派な樹木が多くみられます。

見学地は、世田谷区成城地域の「国分寺崖線」です。
※「国分寺崖線」とは、多摩川が10万年以上かけて武蔵野台地を削り取ってできたものです。樹林や湧水等の豊かな自然環境が残り、「世田谷のみどりの生命線」とも言われる場所です。
 世田谷区WEBサイト「国分寺崖線とは」より
 http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/102/126/418/407/d00004905.html

野川流域で水環境の調査研究をされている法政大学エコ地域デザイン研究所の神谷先生、国分寺崖線の保存樹林で保全活動を行っているボランティア団体「成城みつ池を育てる会」のメンバーの方々に案内、解説していただきながら崖線に残された樹林環境、崖線に沿って流れる河川「野川」などを巡り、洪水被害の低減を目指した雨水浸透・貯留の取り組み事例などを見学しました。

 

成城地域一帯で一般家庭が取り組んでいる雨水浸透・貯留の事例
世田谷区の助成制度を受けて個人宅の庭に雨水浸透マスを設定している印。 世田谷区の助成制度を受けて個人宅の庭に雨水浸透マスを設定している印。
屋根に降った雨を貯留して流出の集中を抑えるために置かれた壺。 屋根に降った雨を貯留して流出の集中を抑えるために置かれた壺。
ちなみにこちらのお宅では敷地に降った雨は地中浸透および貯留によって全て処理され、下水道への流出は0%とのことでした。一戸一戸の浸透・貯留量は少しでも、取り組む家が増えれば大量の水を一時貯留・地下浸透させることができ、地域の洪水対策として大きな効果が期待されます。

 

「成城みつ池緑地」

国分寺崖線にあり、東京都の緑地保全地区と世田谷区の特別保護区に指定されています。
※普段は一般の立ち入りを規制している場所で、今回は世田谷区の許可を得て特別に入らせていただきました。

崖線斜面の広葉樹林と湧水を一体で保全している緑地。ボランティア団体「成城みつ池を育てる会」が中心となって維持管理・保全の取組みが続けられています。東京23区内ではほとんど見ることのできないゲンジボタルが生息するなど、世田谷区内でも特に貴重な環境です。

崖線斜面の広葉樹林と湧水を一体で保全している緑地。ボランティア団体「成城みつ池を育てる会」が中心となって維持管理・保全の取組みが続けられています。東京23区内ではほとんど見ることのできないゲンジボタルが生息するなど、世田谷区内でも特に貴重な環境です。

崖線斜面から湧き出る湧水。湧水量の観測も行われています。

崖線斜面から湧き出る湧水。湧水量の観測も行われています。

 

湧水を活かした整備(崖線沿いの住宅地)
こちらは「成城みつ池緑地」の湧水を流し、沿道も整備した水路。住宅のすぐ脇を清らかな水が常に流れています。

こちらは「成城みつ池緑地」の湧水を流し、沿道も整備した水路。住宅のすぐ脇を清らかな水が常に流れています。

こちらのマンションでは、湧水の存在を知ってもらうため、マンションの向こう側に出る湧水をエントランスまで誘導しています。

こちらのマンションでは、湧水の存在を知ってもらうため、マンションの向こう側に出る湧水をエントランスまで誘導しています。

現在、多くの場合すぐに排水溝に流され、目にする機会が減っているという国分寺崖線の湧水ですが、このように既にあって機能していることを“魅せる・知らせていく”取り組みも重要なことなのだと伺い、「ライフスタイル」との関係について考える機会になりました。

 

「喜多見ふれあい広場」

見学の最後は「喜多見ふれあい広場」です。野川沿いにある小田急電鉄の車両基地屋上を公園として整備した都内でも指折りの面積規模を誇る屋上緑化地です。民間事業地を活用し、子どもも安心して遊べる公園緑地が確保されているほか、この広場から国分寺崖線の樹林にかけての一帯では、四季を通して多くの野鳥を観察することができるそうです。

 きたみふれあい広場(世田谷区WEBサイトより)
 http://www.city.setagaya.lg.jp/miryoku/1301/1302/d00006133.html

※喜多見ふれあい広場から見た「野川と国分寺崖線の纏まった緑」は世田谷区の地域風景資産に登録されています。
 世田谷区WEBサイトより
 http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/102/121/359/d00038410_d/fil/mokuroku2-23.pdf

 

今回この見学会を通して、身近な自然について、地域の人々との暮らしとの関係という視点で改めて考えることができました。そして、気の遠くなるような時の積み重ねが自然の機能美をつくったのだと再認識することができました。「この自然の持つ素晴らしい機能を上手く活用させてもらう」そんな真摯な気持ちで地域の課題解決や魅力ある地域づくりに取り組んでいきたいと思います。

今回廻ったエリアは、地域の自然を学び・体験できる場として世田谷区が整備する「世田谷・みどりのフィールドミュージアム」にも指定されています。身近な自然とその多様な魅力を体験できるとても気持ちの良い場所ですので、お近くにお住まいの方も、東京・世田谷にお越しの方も、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

 世田谷・みどりのフィールドミュージアム
 http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/102/126/418/409/d00031034.html

 成城みつ池を育てる会
 http://www.setagayatm.or.jp/trust/s_trust/volunteer/021mitsuike.html



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