ちいかんコラム

2015
02.05

北の山から2015 自前安全講習会のススメ

北海道支社自然環境研究室長嘉藤慎譲

北海道支社 自然環境研究室長
嘉藤慎譲

はじめまして、北海道支社自然環境研究室の嘉藤慎譲です。

暦の上では立春を迎えましたが、北海道は寒さのピークにさしかかっています。
それでもどっこい、野山では冬眠を知らない動物たちが駆け回り、巣作りを始める鳥さえいます。
生きものを調べる仕事は、この時期も続いているのです。

本日は、そのような野外調査には欠かせない「安全管理講習」についてご紹介します。

 

道なき道をゆく

私たちの仕事は、開発前の事業候補地の事前調査や国立公園等のモニタリング調査なども多く、生きものを探すため季節を問わず「道なき道を歩き続ける」ことは珍しくありません。
ちまたでは、自然の雪山を滑走する、いわゆるバックカントリースキーが流行っているようですが、「道なき道をゆく」という点では、パウダースノーを求めるスキーヤーも同じですね。

仕事も遊びも「道なき道をゆく者」には、当然それなりのリスクがあります。
ケガ、滑落、骨折、道迷い遭難、野生動物との嬉しくない遭遇・・・等など。
万が一、現場で自分(もしくは同行者)がケガをしたらどうしますか?
無線や携帯電話で助けを呼ぶ。自力で下山する。同行者に助けてもらう。頭の中で方法を思い浮かべることはできます。
しかし、実際の場面では十分な対応ができるでしょうか。

道なき道を歩き続ける

道なき道を歩き続ける

 

きっかけはビーコン講習

みなさんはビーコンという機器をご存知でしょうか?
冬山で使用するビーコンは、雪崩ビーコンとよばれます。特定の周波数の無線信号を送受信する機器で、主に積雪期の登山で使用されています。携帯時は発信モードで、雪崩捜索時は受信モードに切り替えます。
ビーコンは、ゾンデ(埋没者を探す細長い棒。プローブともいう)、ショベルとともに、冬山安全対策「三種の神器」といわれ、北海道では冬季現地調査時の安全管理機器にもリストアップされています。
以前、私はビーコンの名前は知っていましたが、使ったことはありませんでした。冬山登山にも興味はあったのですが、機器が高価なこと、何よりもそこまでしなくても。という思いがあったのは否めません。
その後、会社の備品に古いビーコンがあることを思い出し、経験豊富な知人を探して、ビーコンをはじめとした道具の使い方を教えてもらうことにしました。同業の知人に声をかけると、冬山経験豊富な方、興味はあるけど機会がなかった方、機材は貸せるけど忙しくて参加できない方等など、講習を開催するには十分な人材と機材が集まりました。
これが、大人の雪遊びと称して自前安全講習会を始めることになったきっかけです。

野外での安全講習会

野外での安全講習会

 

レスキューシートはあたたかい?

翌年は、参加者からの要望や資料作成の協力もあって、講習メニューも幅が広がりました。
応急救護シミュレーションやレスキュー用品の体験です。
応急救護シミュレーションでは、一次救命処置の基本を学び、現場でケガをした際の基本的な対応法を皆で考えました。調査用具で対応できること、できないことの確認を行うことで、ザックの中に入れておくべき救急用品の必要性を考えて貰うきっかけになりました。
また、調査の際に携帯しているレスキュー用品は、ほとんどの参加者が使ったことがなかったため、レスキューシートを皆で体験。
レスキューシートは薄っぺらなシートですが、思った以上に暖かいです。

屋内での安全講習会

屋内での安全講習会

 

現場の事故を想定したシミュレーション

こちらは社内講習の様子です。
「冬季のクマゲラ痕跡調査でA君が足を滑らせて数m滑落した」ところから、シミュレーションはスタートします。
A君の状況は、「意識あり。出血なし。足を痛めて歩行できない。」という想定です。
相方のB君は無事なので、要救助者A君、救助者B君となります。
「携帯電話が使えるか」「無線は持っているのか」の問いには進行役の私がその都度シチュエーションを指示します。
B君は、「まずはどこに連絡をすべきか」「自分の危険を顧みず助けに行くべきか」「手当をするために調査道具で使えるものはないのか」等を、悩みながら進めていきます。
同時に他の社員はB君の手順、対応内容、情報や経過の記録の様子などを見守ります。
この講習では、対応方法に正解を求めるよりも、いくつものケースを想定した意見交換が必要と考えます。指導員のような専門的なアドバイスは出来ませんが、意識向上のためには必要なトレーニングだと思います。

社内講習 行き倒れるA君、指導を受けるB君

社内講習
行き倒れるA君、指導を受けるB君

 

自前の安全講習も今年で4回目を迎えます。
人工呼吸や心肺蘇生などの一般的な救急法の習得も大切ですが、これらに加え、私たちの日々の業務に即した実践講習は、現場での安全意識を高めるために非常に重要な講習だと考えています。
自社はもとより調査員個々人、業界全体の安全管理意識向上のため、これからも講習を継続していこうと思います。

ちいかんは「生きもののスペシャリスト集団」ですが、それと同時に、私たちは生きものを調べるための現地調査における安全管理面でも「スペシャリスト集団」でありたいと思っています。



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