ちいかんコラム

2014
12.03

~ “漂着物” 浜辺の宝ものが教えてくれる生物多様性~
「博多湾生きものネットワーク(HBN)」の活動始めました。

九州支社長 印部 善弘

九州支社長 印部 善弘

みなさん、こんにちは。
九州支社長の 印部 善弘 です。

今回は、九州支社に赴任して以来、趣味のビーチコーミングから始まった「博多湾生きものネットワーク(HBN)」の活動について紹介したいと思います。

 

まず、ビーチコーミングについて簡単に…
ビーチコーミングとは、浜辺に落ちている漂着物を拾い集めて遊んだり、観察したりすることです。
参考:漂着物学会 公式WEBサイト http://drift-japan.net/?page_id=74

 

ビーチコーミングの様子

ビーチコーミングの様子

みなさん、想像してみてください。
潮風のにおいと波の砕ける音を感じながら、波打ち際を自分のペースでのんびりと歩くのです。とても良い趣味ですし、おしゃれだと思いませんか。
漂流物と言ってもイロイロあります。
パッと思い浮かぶのはキレイな貝殻などでしょうか。

 

 

漂着物が打ち上げられている浜辺

漂着物が打ち上げられている浜辺

ここで「漂着物とは」をまとめてみます。
(ウィキペディア:漂着物の項)
「漂着物(ひょうちゃくぶつ)は、主に海辺に漂着したさまざまな物をいう。その内容は多彩を極め、ときに観察や蒐集の対象となることもある。」とあり以下のようなモノをいうとあります。
自然物…流木・木の実海草貝魚(生きたもの、あるいは死んだもの。生きた回遊魚などが大量に打ち上げられることもある)・ヒトデ動物の死骸・骨・サンゴ・軽石・死体・人工物…難破船漁具(黒球が多い。魚網、イカ釣り漁船の漁火用の電球など)・釣具・空き缶・ペットボトル・発泡スチロール楽器・注射器・浣腸器等の医療廃棄物下着廃油ボールラジオゾンデ等。

ちょっと最初のおしゃれな想像とは違う雰囲気になってしまいましたが、なんとなくイメージしていただけたのではないでしょうか。

 

さて、次にビーチコーミングを好きになった理由です。私は兵庫県の淡路島出身で、子供の頃から海と親しんできました。「将来は海に係る仕事がしたいなあ」という思いから、大学に進学してからも、大阪湾の貝類や海藻を調査していました。就職してからは、陸域の動植物調査の仕事が多く、しばらく海から離れていたのですが、現在の職場(九州支社)が博多湾に近いこともあって、ビーチコーミング復活!休日には子供たちと海辺を歩きながら貝殻で遊び、波で打ち上げられた貝類やカニ類を調べることが楽しみになっています。

また、最初は自分の趣味の続きだったのですが、仕事柄「集めて、調べて、分析して何か結果を出す」ことの魅力?に抗うことができず、現在「博多湾生きものネットワーク(HBN)」に所属し、メンバーの皆さんとともに休日を利用して博多湾に生息する魚類、貝類、エビ・カニ類の分布状況と生息環境のモニタリング調査をしています。

 

博多湾

博多湾

博多湾は、東京湾や伊勢湾に比べて閉鎖性が高く、水質が悪化しやすい環境にあります。

また、昭和30年以降の港湾用地造成や、住宅地の需要を満たすための埋立事業により、干潟や砂浜をはじめとする自然海岸は急速に姿を消していったという背景があります。

 

博多湾調査地点図

博多湾調査地点図

その中で、私のテーマは、博多湾に打ち上げられた貝類の種類を調べることと、環境との関連性を調べることです。調査の結果わかったことを少しご紹介します。

●博多湾の貝類は、磯浜と砂浜で打ち上げられる種類に違いがありました。

●さらに東部と西部でも種類に違いがあり、水質や底質の違いが影響しているものと推測されました。

博多湾東部海域 牧の鼻

博多湾東部海域 牧の鼻

●また、博多湾の東部海域に打ち上げられる貝類は、人工的な養浜やレジャー活動の影響が大きいため、打ち上げられた貝類が、その地区に生息する種かどうかをすぐに判断するのが難しい場合がありました。

打ち上げられた貝類

打ち上げられた貝類

●そのような中でも、2014年までに確認された貝類を地図にプロットすると、タカラガイの仲間、コタマガイ、バカガイ、カバザクラ、キサゴなど、貝の種類によって打ち上げられる場所が異なることがわかりました。このことは、陸からは同じように見える博多湾でも、潮の流れや水質・底質に微妙な違いがあり、それぞれの環境に適した貝類が生息していることを示しています。言い換えると、埋め立てなどで水域の環境が画一的になれば、特定の貝類が増えすぎ、希少な環境に棲む貝類が知らずしらずのうちに減少してしまうことを意味しています。すなわち、博多湾の貝類の多様性を保全するには、長い歴史とともに変化してきた博多湾の地形・地質と、潮の流れをよく理解し、土砂を運ぶ河川の健全な機能を保持するとともに、市街地から流入する栄養塩を適切に制御することが重要です。

バカガイ、カバザクラ、キサゴ、カモンダカラ

バカガイ      カバザクラ       キサゴ      カモンダカラ

 

「博多湾の打ち上げ貝類2014」の表紙

「博多湾の打ち上げ貝類2014」の表紙

今後も長期的にモニタリング調査を続けることで、かつて生息していた貝類と、現在生息している貝類の区別や、博多湾の貝類相の変遷を知ることができそうです。その成果が今後の博多湾の有り方を検討するための、重要な基礎データになりうるのではないかと期待しています。

「博多湾生きものネットワーク(HBN)」メンバーの活動は始まったばかりですが、2014年度は活動の成果として、「博多湾の打ち上げ貝類2014」(博多湾生きものネットワーク)という小冊子を作成し、次年度以降はさらに活動を広げる予定でいます。

まだデータ量は少ないですが、今後もこのような地域活動を通じ、「県民幸福度日本一の福岡県」の生物多様性の保全に貢献できればと考えています。



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